日本化学工業界は欧米先進国企業との熾烈な技術開発競争、アジア諸国企業による生産技術の激しい追い上げなど厳しい問題に直面している。これらの問題はもはや既存製品・技術の単なる追従、改良で対処できるものではなく、さらに類似技術を複数企業間で争う無益な過当競争は許されなくなるであろう。本フォーラムは、かかる現状を深く憂慮された野依教授の意向を受けて設立するものである。現在の閉塞状態を打破するには独創的研究を重視し、これを基盤とした技術の特化ならびにその結果として生まれた独自技術(自、他社を問わず)を尊重する風土を定着させる必要がある。
しかしこのような体制が一朝一夕に構築できるものでないことは明白である。
本フォーラムは中・長期的な視野から(1)独創的技術を重視する産学界の体制の確立、人材の養成、(2)日本独自の技術創出のための核となる研究(シーズ)の発掘のための情報交換の場を確保することを第一段階の目的とする。もちろん、ただちに個々のプロジェクトを具体化することを目指すものではないが、このような活動を通じて独創的な技術を生み出すことが本フォーラムの究極の目標である。
独創技術創出には独創的なシーズを必要とすることは当然であるがさらにこのシーズを適切なニーズに結びつけることが重要である。そのためには産学間、企業間を通じた緊密な人間関係に基づく確度の高い情報交換ネットワークを構築することが不可欠である。従来からの企業間の人的接触はややもすると皮相的であり儀礼的段階で留まっていることは否めない。今後は世界的視野に立って国内企業人の間に同業者、異種業者、素材提供企業、ユーザー企業を問わず真の信頼感を醸成することが生きた情報交換のために肝要である。一方、産学間の交流についてもこれまでは各企業と各研究室との個別的な結びつき頼るものがほとんどである。その結果、シーズが広い観点から評価されないために権利化されないまま埋もれる、あるいは公知化される事態が往々にして発生する。さらにはたとえ権利化されても最適の企業に譲渡されていないためにむしろ実用化が阻害されるケースも生じる。このような従来の一次元的な結びつきの欠陥を補うため、本フォーラムでは産学双方から多方面の関係者が野依教授を囲み、緊密な会合を重ねることにより多次元ネットワークを形成し情報交換の緻密化をはかる。
産業界、学界を問わず人材育成、教育は重要な課題である。とくに企業内の中堅幹部に広い視野を養成するために知己をふやすことは重要であり、本フォーラムでは国内の集会のみならず海外の同様の組織との交流を計り国際的な感覚を磨く機会を提供する。一方、学界人にとり各人の研究が工業的にどのような意味を持つのかその正確な位置付けを把握しておくことは極めて有益である。本フォーラムは企業人との緊密な交流により生きた情報を得るまたとない機会を提供することができる。
以上のような趣旨に基づいて野依フォーラムを設立いたします。
野依フォーラム事務局
京都大学 丸岡研究室内
〒606-8501
京都市左京区吉田下阿達町46-29